シュリーマンと外国語
シュリーマン(1822~1890)は古代国家「トロイ」の遺跡の発見者として知られるドイツの考古学者です。
彼は家庭の事情で14歳の時に高校を中退し、故郷を離れてひとり働きに出ました。 朝5時から夜11時まで食料品店の清掃作業や、倉庫でのきつい仕事です。19歳で失業し、体も壊してしまいました。
一文無しで各地を転々とした後、アムステルダムで何とか定職を得、時間にほんの少し余裕ができます。その時、彼が暖房もない寒い屋根裏部屋で始めたのが「生きた外国語の学習」です。
先ずは英語から始めました。毎日、大きな声で思い切り音読しました。 良い文章をたくさん覚えて先生の前で暗唱しました。 そしてわずか半年で英語の基礎を身に付けたのです。
次の半年でフランス語も身につけました。暗唱で記憶力が、どんどん鍛えられたので、その後はオランダ語、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語を習得するのにそれぞれ6週間しか要しなかったそうです。
毎日、全身で音読と暗唱をしているうちに、いつの間にか呼吸器疾患も完治していました。
(「古代への情熱」村田数之亮 訳、岩波文庫)
シュリーマンは後に、英国総領事の支援を得て幕末の日本を旅し、フランス語で著した旅行記(1865年)で当時の横浜や八王子、そして江戸の魅力を生き生きと描いています。
人生の苦しい時期に、古代ギリシャに倣って見出した語学学習法は、彼が子供の頃から思い描いてきた夢の実現への一歩になったに違いありません。